富士山の銘水 陸上部

FEATURE特集

2024.05.29

その他

「食」で選手を支える管理栄養士

選手たちの健やかな成長と
活躍を支えるおいしい秘密。

日々厳しい練習に励み、めざましい成長を続けている富士山の銘水長距離陸上競技部。選手たちの活躍の影には、彼らを支える大勢の人たちがいます。陸上部のクラブハウスで選手たちに朝夕の食事を提供している専属の管理栄養士、久世幸さんにお話を伺いました。

edit&text:Hisako Iijima photo:Hitoshi Sakurai

 

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Profile

久世 幸/ Sachi Kuse

京都府出身。中、高、大学時代まで中・長距離選手として競技会や駅伝で活躍。徳島大学では医療栄養学を学び、在学中に管理栄養士の資格を取得。卒業後は自らの体験を活かしてスポーツ栄養学を学び、2023年から富士山の銘水長距離陸上競技部専属の管理栄養士として、選手たちの健康管理に努めている。

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久世さんの一日は朝6時に始まります。ここは、陸上部のために完備された食堂のキッチン。品数が多くボリュームたっぷりの20人分の朝食を2時間で用意する、大忙しのタイムレースです。しかも、これはまだ序盤戦。夕方、練習を終えて帰ってくる選手たちに温かな夕飯を提供するまで、久世さんの奮闘は続きます。アシスタントさんと2人、阿吽の呼吸で黙々と調理しながら、食堂に選手が入ってくると、目を合わせて言葉を交わしたり、遅れてきた人にはスープや煮物をわざわざ温め直す心遣いも。

「料理が完成したら、全部トレーに並べておけば手間が省けるのですが、温かいものは熱々で食べて欲しいと思うから」

という彼女の手が止まる時はありません。

 

 

提供するメニューは和洋中、エスニックまで様々。ケニアから日本に来てがんばる選手たちのために、彼らが食べ慣れたアフリカ料理を振るまうこともあるのだそう。

「毎日の食事は体づくりの原動力ですから、パフォーマンスを上げるための栄養バランスは常に細心の注意を払っています。必要な栄養素や分量を精査して1ヶ月分の献立を考案しているのは、同じ地元の山梨学院大学でスポーツ栄養学を学ぶゼミの学生グループなんですよ。実業団のメニュー作りに関わることは、将来を見すえる彼らにとっても良い経験。山梨学院大学との産学連携も、富士山の銘水長距離陸上競技部の活躍を支える大きな強みです」

 

 

陸上の長距離選手は水泳やサッカーに次ぐ激しいカロリー消費量で、タンパク質の摂取量は一般人の約2倍。長距離走は大量の汗とともに鉄分を喪失し、地面からの衝撃で足裏の毛細血管もダメージを受けるため、選手たちは貧血になりがちです。鉄分が豊富なほうれん草やあさり、アーモンドなどのナッツ類も料理によく使われます。

「戦績を左右するレース前の食事は、特に重要です。1週間ほど前から筋肉にエネルギーを蓄えられるように炭水化物を多めにしたり、腸を労るメニューに変えたり。精神力を駆使する長距離選手はストレスフルで腸が過敏になりやすいので、お腹を壊さないように、食物繊維は生野菜ではなく、温野菜に切り替えますし、ヨーグルトなどの乳製品も欠かせません。また、選手たちは企業から提供されたサプリメントや機能性ドリンクでも必要な栄養素を補っていますし、うちはお水の会社なので、良質な水分補給は十分。強靱な体づくりと記録の向上をバックアップするこのクラブハウスは、万全の体制です」

 

 

「うちのご飯が一番、ダントツでおいしい!」と、他のチームから移籍してきた選手たちも絶賛する久世さんの料理。おいしい秘密はもうひとつ、あります。

「プラスティックやメラミン樹脂の器は使わない、料理を盛り付けるのはぜんぶ陶器。気分が上がるように、カラフルで上質な器を選んでいます。私がこの厨房を任された時に、高嶋監督から依頼されたこだわりなんです」

プロの選手は食事をおろそかにしない。毎日きちんとおいしく食べて、持てる力を最大限発揮しようというのが、高嶋監督の考え。

そして、久世さんは「心を込めて、できたてを提供する。笑顔と声がけを忘れない」が信条。普通のことかもしれませんが、バランス良く考え抜かれた食事の栄養を余すことなく体に取り込むためには、おいしく食べることも大切だと、自らもアスリートだった彼女は強く信じています。楽しそうに食卓を囲む選手たちの毎日のおいしい幸せも、チームの結束につながっているのです。