2024.01.01
長距離陸上競技
2区で、中央発條(左)とJFEスチール(右)を含む、3社を追い抜いた篠原。格上選手たちを相手に区間27位と奮闘した。
初めて挑む『ニューイヤー駅伝』、立ちはだかった高い壁
それでもタスキは途切れず繋がった
フレシャスを運営する富士山の銘水の長距離陸上競技部が、実業団駅伝最高峰の「ニューイヤー駅伝」に挑んだ。創部二年目初挑戦となるその戦いの結果は――。
※登場する人物は敬称略しています。
「過去に記憶にないほどの風の強さです」
現地で長年、実況中継を務めてきたアナウンサーがそう語る天候のなか、『第68回全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)』が始まろうとしていた。元日恒例の男子駅伝・実業団日本一を決めるこの大会には、全国選りすぐりの41チームがエントリー。群馬県庁からの7区間(100キロ)で争われる。
創部二年目の『富士山の銘水長距離陸上競技部』は、今大会唯一の初出場チームとして、男子駅伝最高峰の戦いに挑んだ。東日本の予選を劇的な逆転で突破したこともあり、周囲の期待が高まるなか、高嶋哲監督は戦前冷静に試合を分析していた。
「目標は30位以内。富士山に例えれば2合目くらいの、まだ上位争いが見込めるチームではないんです。場合によっては、(繰り上げスタートで※)タスキが繋がらない可能性もある」
実は東日本予選で、エース区間を走った湯本樹と、予選突破の立役者の一人である芹澤昭紀が直前に怪我で離脱。メンバー変更にともなう走順変更もあり、厳しい展開が予想されていた。
9時15分、群馬名物のからっ風で各企業ののぼりが激しくはためく寒空に、スタートの号砲が響く。1区を任されたのは、長距離陸上競技部の精神的支柱・才記壮人。序盤はスローペースと予想していた才記は、大塚製薬の選手が飛び出したことにより、ペースを乱された。「自分の思っていた勝負所と違うところでレースが動きだして、それに対応できなかった」と32位でタスキを渡す不本意な結果に。
※各中継点でトップ通過から10~15分が経過すると「繰り上げスタート」となり、タスキを繋げられなくなるルール
続く2区は今大会最長の21.9キロ、全国の強者が集う最激戦区である。任されたのは東日本予選での活躍も記憶に新しい篠原楓だった。「2区はエース区間で各選手が持つ10,000メートル自己ベストでは参加チーム中、自分が最下位。そのなかで自分の力以上のものが出せました」と、3人を追い抜く快走で29位と、目標の30位以内に希望を繋いだ。
3区ではキャプテンの小林竜也が36位と後退するも、4区のキサルサク・エドウィンがのびのびとした走りで、33位にまで順位を戻した。18歳のエドウィンは、「とても楽しいレースでした。今回は区間5位でしたが、来年は区間3位に入りたいです」と、頼もしいコメントを残した。
5区では、全日本レベルの駅伝は初めての佐藤颯が果敢に攻めた。一時は一人抜いて32位まで順位を上げたが、強い向かい風を受けてラスト1キロで失速、なんとか33位をキープする。初挑戦の経験不足はあったものの、序盤に見せた積極性は今後を期待させるものだった。
この後、6区の吉村陸と7区の竹内颯が立て続けに順位を落として、39位でフィニッシュ。試合後、共に「悔しい」と口にした二人。勝負が決まる大事な局面で、死力を尽くしてもなお、追い抜かれてしまった選手の気持ちは当人たちにしかわからないものだろう……。
『ニューイヤー駅伝』、初めての挑戦はこうして全国の高い壁を実感する形で幕を閉じた。だが選手全員が今持てる力を限界まで絞り切って走った結果、タスキは途切れることなく繋がった。
戦いを終えた高嶋監督はこう語る。
「選手それぞれがこの結果をどうとらえて、どう行動に移せるか。なぜ走れなかったのかにフォーカスして、前向きに取り組まないと先は見えてこないです」
頂を目指すには、選手それぞれの意識と行動が鍵となる。『富士山の銘水長距離陸上競技部』の挑戦はまだ始まったばかりなのだ。
最後に富士山に例えると今は何合目かと尋ねてみた。
「2.1合目ですかね。経験した分だけちょっと前進しました」
厳しい面持ちだった監督の表情が一瞬和らぎ、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
区間 | 距離 | 選手 | 総合順位 |
---|---|---|---|
1区 | 12.3㎞ | 才記 壮人 | 32位 |
2区 | 21.9㎞ | 篠原 楓 | 29位 |
3区 | 15.4㎞ | 小林 竜也 | 36位 |
4区 | 7.8㎞ | キサルサク エドウィン | 33位 |
5区 | 15.8㎞ | 佐藤 颯 | 33位 |
6区 | 11.2㎞ | 吉村 陸 | 38位 |
7区 | 15.6㎞ | 竹内 颯 | 39位 |